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最高裁判所第二小法廷 平成8年(あ)466号 決定 2000年3月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人江橋英五郎外五名の上告趣意のうち、憲法三八条三項、三一条違反をいう点は、共犯者の供述は、憲法三八条三項にいう「本人の自白」に含まれないから(最高裁昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一七一八頁参照)、前提を欠き、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、所論にかんがみ、職権により判断する。

一  原判決の是認する第一審判決の認定によれば、被告人は、北海道開発庁長官として、株式会社共和(以下「共和」という。)の取締役副社長森口五郎から、北海道上磯郡上磯町内を通過する予定の高規格幹線道路函館・江差自動車道について、その上磯町周辺の新設予定箇所に関する情報を内報してもらいたい旨の請託を受けたほか、(1) 第五期北海道総合開発計画に含まれ、札幌市や札幌商工会議所等が同市内に建設を計画していた全天候型スポーツ施設(以下「本件スポーツ施設」という。)の建設事業について、建設予定場所等に関する情報を内報するとともに、第三セクター方式で行われる同事業の主体に共和の取引先会社が参加することができ、かつ、同事業のうち鉄骨関連工事を共和において受注することができるように札幌市、札幌商工会議所等に働き掛けてもらいたい旨、(2) 共和が上磯町において計画しているリゾート総合開発事業に関して北海道東北開発公庫(以下「北東公庫」という。)に融資の申請をした際には、便宜な取り計らいが受けられるように北東公庫に働き掛けてもらいたい旨、それぞれ請託を受けて賄賂を収受したというのである。

二  そこで、まず、(1)の請託の対象とされた行為が、本件当時、北海道開発庁長官の職務権限に属するものであったか否かを検討する。

北海道開発庁長官は、国家行政組織法一〇条により、北海道開発庁の事務を統括するとされ、北海道開発庁は、北海道開発法五条一項一号により、北海道総合開発計画(以下「開発計画」という。)について調査、立案し、これに基づく事業の実施に関する事務の調整及び推進に当たるものとされている。したがって、開発計画に含まれる本件スポーツ施設の建設予定場所等に関する情報の提供を札幌市等に求めることは、北海道開発庁の所掌事務である開発計画に基づく事業の実施に関する事務の調整及び推進に当たることに含まれるから、北海道開発庁長官の職務権限に属するものであったと解される。また、北海道開発庁は、その所掌事務の範囲内で、開発計画の実現という行政目的を達成するため、特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言等をすることができると解され、本件スポーツ施設の建設事業を支援するため必要があるときは、第三セクター方式で行われる右建設事業の主体として適当な企業を札幌市等に紹介したり、特殊専門知識、技術を要する本件スポーツ施設建設工事にふさわしい施工業者を札幌市等に紹介、あっ旋したりするなどの指導、助言を行うこともできるものと解される。したがって、札幌市等に右建設事業の主体として特定企業を紹介することや、本件スポーツ施設建設工事の施工業者として特定業者を紹介、あっ旋する行為も、一般的には、北海道開発庁長官の職務権限に属するものであったというべきである。

三  次に、(2)の請託の対象とされた行為が、本件当時、北海道開発庁長官の職務権限に属するものであったか否かを検討する。

北海道開発庁は、北海道開発法五条一項二号(平成一一年法律第七三号による改正前のもの)により、右法律第七三号による廃止前の北海道東北開発公庫法(以下「北東公庫法」という。)に基づく内閣総理大臣の権限の行使について補佐する(ただし、東北地方に係る業務に関する部分を除く。)ものとされ、また、北東公庫法に基づく内閣総理大臣の権限は、北東公庫役員の任命等に関する事項を除き、昭和四八年七月七日付けの総理府通知によって北海道開発庁長官が専決処理するものとされていた。したがって、北海道開発庁長官は、内閣総理大臣の名において、北東公庫が業務の開始の際に作成すべき業務方法書の認可権及びその変更の認可権(同法二〇条)、北東公庫が四半期ごとに作成すべき事業計画及び資金計画の認可権並びにその変更の認可権(同法二三条)を行使するほか、北東公庫を監督し、必要があると認めるときは北東公庫に対して業務に関し監督上必要な命令をすることができ(同法三三条)、必要があると認めるときは北東公庫に報告をさせ、その部下職員に北東公庫の業務の状況等を検査させる(同法三五条一項)権限を有していた。そして、これらの規定の趣旨、北東公庫の設立目的、開発計画の実現を図るに際して果たす北東公庫の役割等を考慮すると、合理的な行政目的があるときには、北海道開発庁長官は、行政指導として、北東公庫に対し特定の企業に対する融資の紹介、あっ旋を行うこともできるものと解される。したがって、北東公庫に対する個別の融資の紹介、あっ旋は、一般的には、北海道開発庁長官の職務権限に属するものであったというべきである。

四  以上検討したところによれば、(1)、(2)の請託の対象となった行為は、いずれも北海道開発庁長官の職務権限に属した行為ということができるから、これと同旨の原判決の判断は、正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 河合伸一 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)

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